『ほろ酔い植物考』     ナナカマド     バラ科

                                    田城 松幸
       
   高知県では四国山脈の稜線上に点在する程度だが東北、北海道では平地にもあり、特に北海
  道では市町村の木として一番人気があるし、並木道も多いと聞く。この仲間は北半球に約八十
  種、日本には六種の自生が知られている。葉は奇数羽状複葉で夏に白い小さな花を付け、果実
  は秋の終わりに赤く熟する。この木の人気は花よりもむしろ秋の紅葉と果実にあるのではなか
  ろうか。わが家の庭でピラカンサ、クロガネモチ、トベラなどが実をつけるが、鳥はまずピラ
  カンサの実を食べつくす。最後に食べる果実がなくなったらしぶしぶクロガネモチの実を食べ
  る。ピラカンサの実は果肉も多く甘みがあるがクロガネモチの果実は種子に皮が付いていると
  言う感じでおまけに少し苦味がある。同様の理由でナナカマドの実も冬まで残リ、雪の白と果
  実の赤との対比が人目を引くのであろう。
   ♪なぜか揺れる細きグミよ かしらうなだれ思い込めて♪
   ♪川面静かに歌流れ 夕べを急ぐ工場の人 遠く走る汽車の窓光る 若者の待つグミは揺れ
    る オイ巻毛のグミよ白い花よ オイグミよなぜにうなだれる♪
   ロシア民謡の小さいグミの木とウラルのグミの木の一節。私の大好きな歌だが、なんとこの
  グミの木は原詩ではグミでなくナナカマドのことだと言う。これは意外であった。時には高さ
  10mを越え、真っ直ぐ天に向かって伸びるナナカマドが女性の象徴である。
   愛媛県との県境、篠山には小型のナンキンナナカマドが自生する。これなら高さはせいぜい
  3メートルなので女性のイメージだが。一方男性は樫の木である。確かに♪なぜか揺れる細き
  ナナカマドよ♪では歌にはなりにくい。
   ナナカマドの名の由来について牧野新日本植物図鑑には「材は燃えにくくかまどに七度入れ
  てもまだ焼け残るというのでこの名がついた」とある。この牧野説がいたるところで引用され
  ている。ということは他に確たる説が無いということであろう。
   中村 浩著「植物名の由来」東京書籍には「ナナカマドを原木として極上の堅炭を得るには、
  その工程に七日間を要し、七日間かまどで蒸し焼きするというので七日竈すなわちナナカマド
  と呼ばれるようになったのだと思う」とある。確かにその材は硬く燃えにくく、良質の炭もで
  きる。しかし枯れ木は良く燃えると言う。
   かってアイヌの人たちは雪原で火をたくときは下にナナカマドの生木を敷き、その上で火を
  起こしたと聞く。私は牧野説は苦し紛れのこじつけだと思う。一方七日竈説は。
   炭が焼きあがるまでの時間を決める最大の要因は窯の大きさである。炭焼きは基本的には家
  族労働である。老夫婦二人で焼く窯と、屈強な息子二人と両親で焼く窯は効率を考えたら当然
  大きさは異なるはず。窯に火を入れるとまず原木の水分が蒸発する。この工程にゆっくり時間
  をかけたほど硬い良質の炭が出来る。だから同じ窯でも焼き方により、人により時間が異なる。
   炭には通常の黒炭と白炭(備長炭)とがあり、黒炭は焼きあがると窯を密封し冷めるのを待つ。
  白炭は最終段階で窯の口を大きく空け大量の空気を送り込む。するとそれまで300〜400
  度だった温度はいっきに1000度まで上昇する。それをぼんやり眺めていたのでは炭は全て
  灰になるので面白くない。急いで窯から出し消し粉(けしこ)をかけて蒸し消すのである。
   消し粉は灰や土なので焼き上がった炭は灰の色で白くなる。中村氏の説は白炭にも黒炭にも
  当てはまる書き方で、巧妙に断定することを避けているように思われる。氏はその著書で見る
  限り植物一筋の人生だったようであるから、恐らく炭焼きの実体験は無かったであろう。
   同じ炭焼きでも白炭と黒炭では窯の構造からして異なる。白炭は途中で強制的に蒸し消す。
  黒炭は窯を密封して完全に冷えるのを待ち、その間に次に焼く原木を用意する。
   かくも要因の異なる作業を一律に1週間と断定すること事態に無理がある。
   ナナカマドの名の由来は今ではよく分らない全く別の意味があったのだろうと私は思う。
     
          雲海へ 紅葉吹き散るななかまど       岡田貞峰