『ほろ酔い植物考』     ゲンノショウコ   フウロソウ科

                                    田城 松幸
         
   この草を知らない日本人はまず居ないであろう。全国の山野の日当たりのよい場所にごく普
  通に見られる。フウロソウ科は大所帯で世界に650を越える種が知られていると言う。
   かってネパールや天山に行ったとき、ハクサンフウロそのものではなかろうかと思える種に
  出くわしたことを思い出す。
   牧野日本植物図鑑には「薬草トシテ乾草ヲ煎ジ下痢止ノ薬トシテ有名ナリ、而シテ直ニ效(効
  の誤植か)アリト唱へ現ノ証拠ノ称アリ−中略−世間之ヲふうろさう(風露草ト書ス、漢名ニ非
  ズ)ト呼ブハ非ナリ、是レハ伊吹風露草ノ一名ナリ」とあるが、肝心の風露草の意味には触れて
  いない。ゲンノショウコの意味は分るが、分らないのは科名のフウロソウ。広辞苑には「ふうろ」
  で{風露}涼しい風と露−-そう@フウロソウ科の植物の総称。となっている。
   大言海には風炉のこととあるが風露草の説明は無い。
   『植物名の由来』 中村 浩著 東京書籍発行によると「風炉とは茶席で湯を沸かす炉のこと
  で四角形の一辺が空いており、そこから風を送り火をたく、風呂も同様な形である。昔鎮守の
  森のことを「フロの森」と呼ぶ地方があったようで、四角形の三方が閉じており一方が開いてい
  る形をフロと呼んだようである。千葉県では昔コの字形の防風林に囲まれた草刈り場があり、
  フウロ野と言い、ここで刈った草を緑肥として田んぼにすきこむ、これを敷刈(しっかり)と言
  ったそうである。またフウロ野の入り口(多分南側)に当たる開いた場所をフロクチと言い、草
  刈りに入ることを口アケと呼んでいたという。このフウロ野は防風林に三方を囲まれており原
  野に比べると遙かに穏やかな環境であった筈である。そんな場所に多くタチフウロなどがはび
  こった、それをフウロソウと言ったのであろう」と、ある。
   だからフウロソウを風露草と書くのは間違いで、しいて漢字で書くとしたら風炉草と書くべ
  きであろうと中村博士は述べている。この説が一番説得力がある。
   タチフウロは現在高知県植物誌の調査では採集例は皆無である。だから高知県には自生しな
  いと言い切るつもりは無いが。ゲンノショウコは県内ではごく普通にあるし天狗高原などには
  それよりも花の小さい、可憐な感じのヒメフウロもある。最近特に目立つようになったのは北
  米原産の帰化植物アメリカフウロである。ゲンノショウコの葉は3〜5裂するがアメリカのほ
  うは基部まで5〜7裂し、花も葉もゲンノショウコとは違うのでまず間違うことは無い。
   ゲンノショウコの花は赤と白がある。これは始めに赤花があり、その後突然変異により白花
  が出現したのであって、その逆の例は私の知る限り無い。どんな植物にも白花が出現する可能
  性はある。話が脱線するが山口県岩国市では大正3年にアオダイショウの白化したものが天然
  記念物に指定されているし、白化はほとんど全ての動物に見られる現象と言う。
   『動物の色素をつくるのはメラニンという物質である。この色素を生みだすためにはチロシ
  ナーゼという酵素がいる。白子になる固体には、このチロシナーゼが欠けているのである。羽
  毛や体毛が白い動物がいるが、かならずしも白子ではない。判別の方法は、まず目を見ること
  である。ふつうに見かける白いウマやイヌは、目が黒いはずである。白子になると目の色素も
  失われ、血液の色がすけて見えるので赤い色をしている』 畑 正憲著 「天然記念物の動物た
  ち」より無断で引用。興味のある方は自分で本を買って読んでいただきたい。

     げんのしょうこ 踏まれて咲いて花盛り      松本澄江