『ほろ酔い植物考』     フジ(ノダフジ)   マメ科

                                     田城 松幸
      
   日本特産の蔓植物で長さは時には10mをこえるものも珍しくない。葉は長い葉柄があり、
  左右対称に小さな葉が5〜9対付き、先端にも1枚小葉が付いている。こういう付き方の葉を
  奇数羽状複葉と言う。これに対し先端の小葉が無いものを偶数羽状複葉と言い、めったにお目
  にかかれないがムクロジなどがこれに当たる。小さい葉を小葉(しょうよう)と言い、1本の葉
  柄に付く全ての小葉を含んだものが1枚の葉である。
   ものの本によると日本にはフジとヤマフジの2種があり、北海道には自生しないようである。
  これはフジが人家や公園に植えられ、ヤマフジは山野に自生するということではなく、両者は
  蔓の巻き方が逆であり、個々の花はヤマフジのほうが大きく、房はフジのほうが長いと言う違
  いがあり、全く別の種として扱われている。両種とも白花があり、園芸品種には当然それらの
  雑種が含まれている。と言うより雑種ばかりかも知れない。
   他にもナツフジ、クサフジなどフジと名が付く種があるがフジがマメ科フジ属、学名ウィス
  タリア、ホリブンダ、ナツフジはマメ科ナツフジ属で学名ミレッチア、ジャポニカと、戸籍が
  若干異なり、厳密にはフジの仲間ではない。
   中国にはシナフジ、北米にはアメリカフジと呼ぶべき種があり、フジの仲間は世界でこの4
  種だけという。ただし、花の美しさ、優雅さでは日本の両種が遥かに勝っているという。
   余談になるが中村市街の南西、四万十川の右岸に香山寺という小高い丘があり、赤鉄橋やバ
  イパスから三重の塔の屋根が見える。市民憩いの公園として道や駐車場もよく整備されている
  が、ここに全国いたる所の○○フジというのが植えられており、花時には一見の価値がある、
  と思う。
   フジの花を天ぷらにすると食べられるという事実は意外と知られていないのではなかろうか。
   かって我が家でも藤棚を作り、園芸品種のフジを植えていた。とにかく成長が早く、春には
  週に1回は剪定しないとバスのアンテナに蔓が当たるという苦情がくるし、冬には大きな枝を
  間引きしないと房が垂れ下がらなくなり手間がかかる。小さなカメムシの類がいっぱい寄って
  くるし、めったな所に植えると仕事を作るようなもので無精者には向かない。最後にはこの藤
  棚を伝って二階の部屋に蛇まで入ってきた。
   蔓の巻き方について牧野植物図鑑にはフジは右巻き、ヤマフジは左巻きとある。ところが山
  渓ハンディ図鑑『樹に咲く花』にはフジは左巻き、ヤマフジは右巻きとある。逆である。これ
  はどういうことであろうか。蚊取り線香は右巻きか左巻きか、あなたは考えたことがあるだろ
  うか。右巻きの蚊取り線香も裏返せば左巻きになる。つまり牧野博士は蔓を上から見て右方向
  に(時計回り)に巻いているのが右巻きというのである。本田政次博士もこの説をとっている。
  昔はこの説が常識であったのだろうか。
   蔓にかぎらず植物は下から上に伸びていくものである。私は地球上に上向きに寝転んで、右
  回りで巻いていくのが右巻きだと思い込んでいた。これで完全にアタマにきた。以後蔓の巻き
  方は無視することに決めた。第一天ぷらにして食べるぶんには蔓の巻き方など関係ない。
   フジは昔から日本人に愛されたとみえ、万葉集に27首も多く詠まれている。当時はフジと
  ヤマフジを区別してなかったはずだから、蔓の巻き方で熱くなる人もいなかったであろう、と、
  再び思う。

    恋しければ形見にせむとわが屋戸(やど)に 植し藤波いま咲きにけり  山部赤人