『ほろ酔い植物考』      オガタマノキ     モクレン科

                                     田城 松幸
      
   
   関東以西の主に太平洋側の沿海地に点在する常緑高木でよく育てば胸高直径1m、高さ20m
  を越えることも珍しくない。葉は光沢があり皮質だが、明確な特徴のない木でなかなか覚えに
  くい。しいて言えば特徴のないのが特徴という感じ。我が家の庭にも植えてから10年位たつ
  がすでに2階の屋根を越えている。花は3月頃咲き、芳香があり美しいのだが葉脇に1個付き、
  直径3cmと小さく、花の位置も高いので見つけにくい。
   私は現在高知県植物誌の調査に従事し、間もまく6年目を迎える。初めの頃見たことも無い
  木に出くわした。他の調査員に聞いても知らないと言う、枝を持ち帰り図鑑で調べていたがふ
  と思いついて庭のオガタマノキと比べるとぴったりと一致した。無論今は他の調査員も一見す
  ればすぐそれとわかるが。
   寄る年波かはたまた変なものの飲み過ぎか物忘れがひどくなった。植物はよほど大きな特徴
  があれば別だが、未知の種はなかなか覚えられない。実物をじっくりと観察し、時にはよく似
  た種と比較し、それをしつこく繰り返す、ここまでは別に問題ない。が、そうして苦労して覚
  えた種名も時には3歩歩けば忘れる、このへんに若干問題がある。先日知人にその話をすると
  「ほー、偉いじゃいか」と褒められたが多分お世辞だろう。
   オガタマノキの名の由来は「招霊(おきたま)」、または「招奉る(おきたてまつる)」がなまった
  というのが定説である。昔の人はこの木に不思議な霊力があると考えたのであろう。
   植物調査の際、神社に鎮守の森があれば必ず立ち寄ることにしている。天然林の名残がある
  からだが、多くの神社でこの木を見かける。多分大部分は昔氏子たちが植えたものであろう。
   オガタマノキといえば蝶のミカドアゲハ,昭和16年に高知市の潮江天満宮とその周辺のミ
  カドアゲハが天然記念物に指定され、現在も指定が解除されたと言う話を聞かないから厳密に
  言えば潮江天満宮や潮江中学校周辺では採集は禁止であろう。が、ミカドアゲハは確実に増え
  ている。室戸市や佐賀町でも盛んにオガタマノキを植林しているし、地球温暖化の影響もある
  であろう。我が家にも毎年産卵にくる。まれに年2回発生する時もあるが。写真に撮ろうと思
  っても飛び方も素早いし産卵も一瞬のことなのでなかなかカメラでは追いきれない。
   九州の高千穂神社では、玉ぐしはサカキでなくオガタマノキを用いると言う、人に聞いた話
  ではあるが私は事実であろうと思う。

     思ひいづる 旧きよきこと語りあふ をがたまの花匂ふ夕ぐれ    北沢郁子