『ほろ酔い植物考』     ママコノシリヌグイ      タデ科

                                     田城 松幸
      
   全国いたる所の道ばた、田の畦などやや湿った日当たりの良い地に生える多年草。葉は三角
  形で長さ5cm前後、茎は緑色、時に桃色で長さ1〜2m。葉、茎共に下向きの鋭い棘があり、
  この棘を他物に引っ掛けて上部に茎を持ち上げる。
   花は春の頃咲き、白と桃色の混ざった金平糖のような形で愛らしく、花だけを見た場合は他
  のタデ科のミゾソバなどと区別が付きにくい。しかし葉や茎にある棘は手に刺さるくらい鋭く
  可愛いげがない。同じ仲間にイシミカワやウナギツカミの類があり、やはり下向きの棘がある。
   イシミカワの語源ははっきりしないがウナギツカミはぬるぬるしたウナギも棘のあるこの草
  なら簡単に掴めるという意味であろう。ウナギツカミの1種ナガバノウナギツカミは高知県で
  は準絶滅危惧種に指定されている。
   私が子供の頃はウナギがいっぱいいて田植えが終わると夜、父に連れられカーバイトのラン
  プを灯しウナギを捕りに行った。田の中を這うようにして採食しているウナギを鰻鋏(うなぎば
  さみ)で挟むのである.イネが伸びるとウナギが見にくくなるのでこの漁は終わりであったが。
   またコロバシ(竹で編んだ筒)に餌のミミズやドジョウを入れて夕方、川や溝につけ、朝学校
  に行く前にそれをあげると言うのが当時の子供の普通の生活であった。
   余談になるがコロバシのウナギの入り口の部分をやたら手で触ると大きなウナギはまず入ら
  ない、匂いがうつるからである。すごい能力だと思う、手で触っただけで、しかも流れる水に
  漬けているのである。それを敏感に感じとるのだから。
   捕って来たウナギは父がカボチャの葉で掴み、料理するのが常であった。カボチャの葉裏に
  も細かい棘がある。今私がウナギを料理するときは古新聞でウナギを掴む、新聞紙がウナギの
  ぬるぬるを吸収するので簡単に掴める。当時は古新聞も物を包んだり炭火をおこすときの焚き
  つけ用に必需品であったからウナギを掴むという発想はなかったのであろう。
   また夜行性のウナギが昼間から田や溝を這っているのをたびたび見かけた。こんなとき昔の
  人は実際にこの草でウナギを掴んだのであろう。
   ウナギツカミの名はまず間違いなく実生活の中で自然発生したものであると私は考える。
   ではママコノシリヌグイはどうであろうか、いくら継子(ままこ)が憎いからといってもこん
  なもので尻を拭う人はいない、第一今なら傷害罪に問われかねない。
   この鋭い棘から継子の折檻を連想する、並みの人間の発想ではない、きっとこの名を最初に
  考えついた人も、またそれを言い伝えてきた人達もしたたかなユーモア精神の持ち主であった
  に違いない。継子の尻叩きでなく尻拭いであるあたりがなんとも芸が細かい。数ある日本の植
  物名の中でも最高傑作の一つであると私は思う。
   ただ、惜しむらくはその葉は、完全に尻を拭いきれるだけの広さが無い。
    
     草いろいろ それぞれ花の手柄かな      芭蕉