『ほろ酔い植物考』     ヤマアイ    トウダイグサ科

                                    田城 松幸
      
   古代の染料植物の一つ、万葉集にも山藍(やまあい)で一首読まれているから昔から染料とし
  て利用されていたようである。タデ科のアイやキツネノマゴ科のリュウキュウアイが渡来する
  まで、このヤマアイで染めた色が藍色であったようである。アイやリュウキュウアイが青藍(イ
  ンジゴチン)を含むのでいわゆる藍色に染まるが、ヤマアイは葉緑素の緑色に染まると言う。と
  いうことは、藍色は時代とともに緑色から青色に変化したと言うことになる。アイは江戸時代
  から徳島県を中心に盛んに栽培されアサ、ベニバナ(またはワタ)とともに三草(さんそう)と称
  され、貴重な作物であったというが、19世紀にドイツで科学染料が作られるようになるとしだ
  いに廃れ、今では趣味と道楽の世界で細々と用いられるにすぎない。
   ヤマアイは山野の日陰にごく普通に見られ、花も草自体もとりたてて愛でるようなシロモノ
  ではないが、例えば横倉山の大きなスギの木の辺の道端にいっぱい生えている。これをそのま
  ま布に摺り付けても良く染まらず、一度乾燥さして臼でつき、その汁に浸すと緑色に染まると
  いう。アイはなんと醗酵さすと藍色になるという。すごい発見である。おそらく偶然の産物で
  はあろうが誰が最初に始めたのであろうか。
   万葉集に山藍で読まれている歌。
   河内(かふち)の大橋を独り去(ゆ)く娘子(をとめ)を見る歌一首
   級照(しなて)る 片足羽川(かたしはがわ)の さ丹塗(さにぬり)の 大橋の上ゆ 紅(くれな
  い)の 赤裳裾(あかもすそ)引き 山藍(あい)もち 摺(す)れる衣(きぬ)着て ただ独り い渡
  らす児(こ)は 若草の 夫(つま)かあるらむ 橿(かし)の実の 独りか寝(ね)らむ 間はまくの        
   欲(ほ)しき我妹(わぎも)が 家のしらなく
   〔大意〕片足羽川の赤く塗った大橋の上を、紅の赤裳の裾を引いて山藍で摺りそめにした衣
  を着てただ一人渡って行く子は、夫が有るのだろうか。独り寝るのだろうか。それを聞きたく
  思う、この可愛い女の子の家は何処であろう。〔日本古典文学大系 万葉集二〕岩波書店
   いかにもその情景が目に見えるようで私はこの歌が好きである。

    この村に 減りし土蔵や藍の花   谷口秋郷