『ほろ酔い植物考』     ヒツジグサ     スイレン科

                                  田城 松幸
  
   全国の湖沼、ため池などに自生する多年生の水草。根は水底にあり、長い柄をつけた葉
  を水面に浮かべる。葉は10〜20cmの楕円形で基部には深い切れ込みがあり、6〜9月、水面
  に花を出し、昼頃に径5cmほどの白い花を開き夕方には閉じる。
   牧野博士が京都の小椋池に船を浮かべ未(ひつじ)の刻、今の午後2時ころ花が開くこ
  とを確認したようで、夜には花を閉じるため睡蓮(すいれん)の漢名もある。
   高知県では絶滅危惧TA類に分類され、「ごく近い将来における野生での絶滅の危険性
  が極めて高いもの」となっている。我が家のささやかなビオトープにも、宿毛市のため池
  からタネを採ってきて植えているが、毎年5月には可憐な花が開く。陽当たりが悪いせい
  か野生のものより葉も花もはるかに小さいがタネもできるし、立派に発芽する。花は3日
  くらい開閉を繰り返し、花茎をラセン状に巻いて短くし水中に没する。熟すると開きタネ
  を出すが、タネには白い糊状のものが突いており水面に浮く。その間に水流、風、時には
  水鳥などに付いて移動し、やがて水底に沈み、うまくいけば翌春発芽する。
   タネは硬く、鳥が食べても消化できるとは思えない。花を水中に没することにどんなメ
  リットがあるのか私には理解できないが、多分それなりの理由があるのであろう。
   花茎は単にラセン状に巻くのではない。同じ方向に巻くとよりが掛かり引っ張ったとき
  に切れやすい。そこで考えた、かどうか知らないが途中から回転方向が逆になるのである。
  これならよりが掛からず引っ張ったときに切れにくい。このあたりがなんとも芸が細かく
  心にくい。キュウリやカボチャの巻きひげも同じ構造になっている。興味のある方は自分
  で確認して戴きたい。この事実を知ったある人いわく、「この草は実に頭がいい」、そこ
  で極めて素朴な疑問が一つ湧いた、いったいこの草のどの辺が頭に相当するのであろうか。
   睡蓮の仲間は熱帯、亜熱帯を中心に50種くらい自生が知られている。当然これらの種
  をもとに品種改良された園芸品種は数知れず、日本に自生する睡蓮はヒツジグサ1種のみ。
   睡蓮と蓮はどう違うのか。睡蓮類の花は水上に浮いているが蓮は空中で開く、葉は睡蓮
  は切れ込みがあるが蓮には無く円形である、と、ものの本にある。ただし例外があったと
  しても私は責任を負いかねる。

    未草 閉ぢている間を雲と行く      星野恒彦