『ほろ酔い植物考』     カマツカ     バラ科

                                  田城 松幸

   全国の里山、林縁などにごく普通にある落葉低木。春の頃枝先に白い花がアジサイのように
  群がって咲き、実は初冬に赤く熟する。12月頃里山で横に広がった葉の無い枝に、長さ10ミリ
  弱の赤い実をいっぱい付けている木があれば、まずカマツカであると思って間違いない。
   この木にはウシコロシという物騒な名もある。カマツカは知らないがウシコロシなら知って
  いるという人のほうが多いのではなかろうか。そもウシコロシとは何ぞや、「牛この葉を食ら
  ふと暫しの後、涎激しく声すざまじく、七転八倒、七転び八転び、阿鼻叫喚の形相のまま昇天
  するのでこの名がついた」、というのは嘘で、牧野植物図鑑には「鎌ノ柄ニ用イラルルニ由リ
  鎌柄ノ名ヲ得,又牛ノ鼻ニ綱ヲ通ス時比木ヲ似テ鼻障ニ孔ヲ穿ツヨリ牛殺しト称ス。」とあり
  、山渓ハンディ図鑑3の「樹に咲く花」には用途の欄に「牛の鼻輪などの器具材」とある。
   ヤギくらいの大きさの家畜であれば犬と同じ首輪でいい。牛くらいの大きさになると暴れだ
  したら人間では抑えきれない、幸か不幸か哺乳類の鼻の穴は二つある、その間に穴を開け鼻子
  (鼻に通した輪、広辞苑)を通して引っ張れば、牛は痛みに耐えかねおとなしくするしかない。
   誰が最初に考え付いたか知らないが素晴らしい発見である。私が子供の頃にはすでに真鍮製
  の鼻子が出回っていた。人が牛を飼い始めたのは何時ごろか知らないが農耕が始まり、田起こ
  しに鋤(すき)を使い始めてからであろう。始め鋤は木で作っていたかも知れないが、それを作
  るには鉄製の刃物があったはずである。石器時代ならいざ知らず鼻に穴を開けるのに木の枝を
  用いるというのは馬鹿げている。ウシコロシの名の起こりは枝で鼻子を作ったというのが本当
  であろう。
   炭焼きが盛んな頃、焼いた炭を入れるのにススキで編んだ筒に縦に十文字に縄をかけたもの
  を用いていた。これだけでは単なる筒であり入れ物にはなっても、蓋と底が無ければ持ち運び
  はできない。木の枝を輪状に曲げて蓋と底を作ったのだが、シイの木などでは枝が折れ、枯れ
  ると炭がこぼれる。カマツカなら枯れてもそんなことはなかったのである。幸いカマツカは海
  岸近くから標高千メートルくらいまでごく普通にある。
   要するにカマツカはよく曲がり、枯れても折れないのである。牧野博士の子供の頃にはすで
  に真鍮製の鼻子が出回っており、博士も真鍮製の鼻子しか見たことが無かったと推測される。
   カマツカという名の植物がもう一つある。なんとハゲイトウの古名であるという。私の蔵書
  で俳句や和歌の本にカマツカで詠まれているのは、全てこのハゲイトウであるというのがまず
  気にくわない。さらに腹がたつのはカマツカの葉に細かい毛が生えているものがある。これを
  ケカマツカという。そんなことどうでもいいではないか、人間だって変なところに毛が生えて
  いるではないかと、私は思う。が、悲しいかな私ごときがどう思おうと一切問題にはならない。
   新しい和名が認知されれば当然新しい学名が付く、学名の後には命名者の名前が付く、学者
  先生もどっかで自分の名前を残したいと考えるのであろう、よせばいいのに細かく細かく分類
  してくださる。こちらはそれらを全て覚え区別しなければならない、新しい植物名を覚えても
  三歩歩けば忘れるという現実があるのに。
   かくして真空管の切れかかった調査員の悩みがまた一つ増えるのである。
     ヤケクソで辞世の句
  
      告知あり 介錯(かいしゃく)無用寒椿   西畑六道