『ほろ酔い植物考』     シキミ     シキミ科

                                  田城 松幸

   ご存じ仏教では墓に供える木、高知県ではハナシバとも言う。今は火葬が普通になったが2
  0年くらい前は土葬が当たり前で、講組に不幸があると女は接客用の寿司作り、男は墓堀りな
  ど出棺の用意と役割が決まっていて、私たちの講組では墓堀りは肩の高さまで掘るのが慣わし
  であった。昔、埋め方が浅いと野獣が遺体を食い荒らした。シキミと一緒に埋葬すると獣もシ
  キミが毒だと知っているので食い荒らされることはなかったのであろう。今墓にシキミを供え
  るのはその名残であるとう。ところが植松 黎著『毒草を食べてみた』文春文庫によると、
  「ドライアイスのないこの時代にあっては亡骸から死臭をとりのぞくにはシキミを焚き込むし
  かなかった。その名残であろう、関西では今でも葬儀にシキミを供える」とある。
   ものの本によるとシキミは東北南部以西に分布するとある。関東地方にも分布するはずだが
  墓にシキミを供える習慣はないのだろうか、それとも別のものを供えるのであろうか、別に私
  はどうでもいいが。
   シキミは木全体に毒があり、特に果実は猛毒で“悪しき実”がなまったと言うのが定説。
   かって高知市の日曜市でシキミの実をマタタビと言って客に売り、物議をかもしたことがあ
  ったのでご記憶の方もおられよう。マタタビの果実にはマタタビミバエという昆虫が寄生し、
  虫えいを作る。虫がつかなければマタタビの実はドングリを細くし先を尖らせたような形だが、
  虫えいの実はだんご状になりシキミの果実に似ている。だから実を間違えたのは理解できる。
   分からないのは何の目的でシキミの実を採ったのかということである。トイレのウジ殺しに
  でも使用するつもりだったのであろうか、保険金殺人などに用いるのなら、シキミは確実性の
  点で問題があるので私はキノコのドクツルタケをお勧めする。なにしろ1本以上食べると病院
  で適切な処置をしないかぎり、3日以内に確実に保険金ガバの状態になるのだから勝負が早い。
   ようするにこのキノコを2本以上食べた人は未だかって存在しないのである。
   余談になるが我が家は仏式で墓にはシキミを供える。妻の実家は神式で叔父といとこが神官
  をしており、冠婚葬祭にはサカキを使う。かって家を建て直した際、神官の叔父に地鎮祭をお
  願いしたところ、サカキとタケを用意しておけと言われた。シキミなら町内に自生する場所を
  知っているが、サカキは普段の生活に縁がないので有る場所を知らない、思案のあげくシキミ
  ではいかんだろうかと妻に言ったところ、文字どうり真顔になって怒られた。
   やはりよけいなことは言わないほうがいいみたい。
   前述の「毒草を食べてみた」によるとシキミでの中毒例が載っている。神戸での自然教室に
  参加した大学生や小学生15名が二千粒ものシキミのタネを炒り、小麦粉に混ぜてパンケーキ
  を焼き食べたという。一同ひどい吐き気とケイレンにおそわれ病院にかつぎ込まれたのは言う
  までもない、全員が、食べたのはシイの実であると信じきっていたという。とんだ自然教室が
  あったものである。もしこの自然教室に専属のリーダーがいて、その指示でシキミを食べたの
  なら、リーダーは刑事責任を問われてしかるべきだと私は考える。それにしてもシイの実やシ
  キミを知らない大学生とはいったいどんな人種であろうか。結局12人が入院したという。シ
  キミを供えられる人が出なかったことは不幸中の幸い。       
   ことここに至っては、ただただ脱帽、アッパレの一言。

    ゆかしさよ 樒花咲く雨の中     蕪村