『ほろ酔い植物考』     ヒガンバナ            ヒガンバナ科

                                  田城 松幸
                     
   北海道を除く全国各地の原野、堤防などに生える多年草。この花を知らない日本人はまずお
  るまい。秋の彼岸の頃、いきなり50cm程の花茎を出し燃えるような赤い花を数個付ける。
   葉は花が終わってから出て冬、他の草が枯れた頃十分に日光を受け成長し春には枯れる。
   一見さりげなく咲いているように見えるこの花は、実は数個の花の集まりで6枚の花びらと
  6個の雄しべと雌しべが吐出し、それらが微妙に反り返るさまは、まさに芸術的で創造主であ
  る大自然の奥ゆかしさと気品を感じるのは私一人ではあるまい。
   花後、実らしきものはできるがタネはできない。すでに三倍体になっているという。多分毎
  年1個か2個球根が増えるのであろう。ただ、中国中西部に自生するものはタネで増えるとい
  う。
   田中修著『ふしぎの植物学』 中公新書 によるとその年に花を付ける球根は全体の5〜2
  0%であるという。日当たりや土の条件などで差があるようだ。
   これは意外な結果である。赤一色で群れて咲いている所では、その下は球根の絨毯であろう。
   有史以前に中国大陸から人の手によってもたらされたというのが定説で、球根はアルカロイ
  ドを含み有毒だが、つぶして水にさらすと毒が抜けるので餅などに入れて食べる、と、ものの
  本にある。ただしそれは決して美味しいものではないと言う。
   多分昔の人はこの球根を常食とまではいかなくとも非常食として人家の近くに植えたのであ
  ろう。高知県のように「年にお米が二度獲れる」所はともかく「寒さの夏はおろおろ歩く」よ
  うな地では、飢えは今よりはるかに身近にあったであろうし、飢饉も度々あったでろうから。
   同じヒガンバナ科の仲間にハマオモト、キツネノカミソリ、スイセンなどがある。ハマオモ
  トは浜木綿とも言い暖地の海岸に生えキツネノカミソリもやはり暖地に自生する多年草で、花
  を狐の剃刀に見たてたもの。スイセンはヨーロッパからシルクロードを経て中国から日本に渡
  来したもので園芸品種もいっぱいある。むしろ園芸種の方がなじみ深いのではなかろうか。
   私の知っている女性が知人の家で珍しいスイセンを見つけ、無理を言って球根を数個分けて
  もらったところ、あろうことかダンナがニンニクと間違え全て刻んで酒の肴にしたという。
   仕事から帰るなり「このニンニクはひとっつも辛ろうなかった」と言われカカアの方は怒り
  心頭に発したという。たかがスイセンで危うく離婚沙汰になりかけたのである。スイセンは有
  毒植物であるが、数個程度なら問題ないのであろう。
   ヒガンバナは方言の多い草で、幽霊花、死人花、捨て子花、シーレイ(死霊)など50くらい
  の呼び名があると言う。曼珠沙華は梵語の『天上の花』、『赤い花』の意味でどうも日本人は
  この花に良いイメージを持っていないようである。花の色から血を連想するためであろうか。
  この花を大好きという人を私は知らない。だだし外国人は素直にこの花の美しさを愛でると言
  う。

     曼珠沙華ひた紅に咲きたれば いやさぶしかも古里の野は   中根貞彦