『ほろ酔い植物考』     ホウライチク         イネ科

                               田城 松幸
                     
   英語で竹のことをbanbooという。ドイツ語ではbambus,フランス語ではbanbou、
  その他スペイン語でもロシア語でも多少スペルの語尾変化はあるがやはりバンブー
  である。ということは初めにバンブーという言葉があり、それが世界中に広まった
  ことを意味する。ホウライチクのことを何故か高知県ではシンニョウチクと言う。
  どんな漢字を書くのか知らないが。
   竹の類はおおざっぱに分けて三つのグループに分けられる。背の低い笹の類、背
  の高い竹の類、そしてこのバンブーの類で、日本にはホウライチクなど数種が知ら
  れている。が、こういう分け方が学会で認知されているかどうかは知らない。
   竹の類は熱帯から温帯にかけて分布するがヨーロッパやアメリカ大陸にはない。
  ただし、ハワイアンに「小さな竹の橋」という曲があるから、ハワイには分布する
  のであろう。モウソウチクやハチクの類は地震でも揺れないと言われるほど地下茎
  を張り巡せ、広範囲に分布を広げるが、バンブーの類は根がすぐに上を向き、桿(か
  ん、イネ科植物の中空の幹)となって立ち上がる。結果的には横に広がらずに株立
  ちになり、肉の厚い竹となる。これが火事になると節間の空気が膨張しバンと裂け、
  圧縮された空気がブーと吹き出る。それが語源になっているという。
   中学生の頃近くの村で山火事があり、夜、稜線の向こう側から山頂に火がまわり、
  炎が木のかたちとなり、それはそれは見事な情景であった。そのとき竹薮が燃えた
  のであろう、バン、バンという竹の裂ける音が2キロくらい離れた場所まで聞こえ
  てきた。かってネパールの山野を彷徨したさい、モウソウチクくらいの大きさのバ
  ンブーを見掛けた。これが肉厚の桿ならバンブーの語源はさもありなんと思う。
   ホウライチクは中国南部の原産で今では関東地方以南の里山にごく普通に見られ
  る、モウソウチクが江戸時代、薩摩藩の密貿易により中国から渡来したことがはっ
  きりしているのに対し、本種は渡来時期がはっきりしない。
   子供の頃、このタケで火吹き竹を作った。節間が長いのと大きさがちょうど手ご
  ろであったから。その他に山林の境界に点々と植えられている。分布面積が簡単に
  広がらないので適している。それ以外には燃料にするくらいの利用価値しかない、
  筍が美味いという話も聞いたことが無い。昔の人はなんでこんなアホゲなものをわ
  ざわざ中国から持ってきたのだろうか、と、ずっと不思議に思っていた。ある時酒
  を飲んでいてひらめいた。ホウライチクの新芽を切り、土に埋めておくと節から簡
  単に発芽する。堤防が切れたとき、まず杭を打ちモウソウチクなどを割り、竹で編
  む、内側に土を入れ、ホウライチクノの新芽を埋めておくと芽を出す。ホウライチ
  クとて竹のはしくれ、根はしっかりと張る。建設機械など無い時代に一番簡単な土
  木工事だったのではなかろうか。私の部落の川に数百メートルにわたりホウライチ
  クの堤防がある。国道56号線,JR西大方駅周辺にも断続的に数十メートルにわ
  たりホウライチクの堤防がある。これらは昔の土木工事の名残ではなかろうか。こ
  れにこそ、ホウライチクの出番があったのであろう。
   さすがは百薬の長、コーラーや缶コーヒーにこんなひらめきを期待しても無理で
  ある。

    脱ぎすてて 一ふし見せよ竹の皮    蕪村