『ほろ酔い植物考』     イチョウ            イチョウ科

                                  田城 松幸
                     
   我が国の秋の風物詩としてなくてはならない落葉高木、高さ30〜40m、直径も時に
  は2mを超える。葉は扇型で幼木では切れ込みが深いが、成木では浅くなり時には無くな
  ったりする。機会があれば数枚の葉を手に取り見比べて戴きたい、全く同じ形の葉という
  のは無いはずである。もし形も大きさも全く同じという複数の葉を見つけたら、あなたは
  ためらわずに宝くじを買うべきである。          結果はともあれ。
   雌雄異種の植物で、雌株には銀杏がなるのは周知のとおり、ただし近くに雄株が無けれ
  ば実はならない。
   ダーウインが「生きた化石」と言った植物で古生代の末期に地球上に現れ、ジュラ紀が
  その最盛期で中国、シベリア、ヨーロッパ、北米などに分布していたようで今では化石と
  して発見される。現在、主に中国と日本で栽培されているが不思議なことにイチョウの自
  生地は地球上のどこにも無い。日本にあるイチョウは昔中国から渡来した物であろう。
   どこにも自生していない木がなぜ今も中国や日本にあるのか。それはこの木が非常に長
  生きをし、病害虫や乾燥、台風にも強いなどの理由が考えられる。
   私は昔畑の縁に根元を上にして差し込まれたイチョウの枝が全て芽を吹いているのを見
  たことがある。普通挿し木をする場合は根元を下にして挿す。根元を上にして無造作に差
  し込まれた枝が全て芽を吹くということは、並の生命力ではないという証であろう。もっ
  ともその枝が全て成木にまで成長したかどうかは知らないが。
   イチョウは街路樹としても人気があり御堂筋や神宮外苑などが数も多く有名である。
   またイチョウは1属1科1種の珍しい植物で分類学的にはソテツと共に下等な裸子植物
  で、なんと受粉ではなく受精という方法で子孫を残す。雄花の花粉は風によって運ばれ雌
  花の胚珠に入り、その中の花粉室で生育し、9月の上旬に2個の精子を出して受精すると
  いう。何故こんなややこしいやり方で子孫を残すのか。一介の酒飲みには理解の外である
  が、多分その昔、植物は水中で誕生した名残であろう。イチョウもソテツもその精子を最
  初に発見したのは日本人であるということは、世界的に有名であるという。
   イチョウが我が国に渡来した頃は薬としてであったようで、そのためみだりに人家など
  に植えてはいけないという風潮があったようである。今神社などに大木が多いのはそのせ
  いであろう。またこの木は老成すると枝に突起物ができ、気根のように垂れ下がり、俗に
  イチョウの乳房と呼ばれ長さ2mに及ぶものもある。
   大木はそれ自体神木として奉られ信仰の対象にされているイチョウはあちこちにあるよ
  うで、母乳の出の悪いい人が拝むと乳の出が良くなると言うが、ゴリヤクの程は責任を負
  いかねる。
   実は秋に黄色く熟し、その中に銀杏が入っているが、果肉が皮膚につけばかぶれるし独
  特の匂いもあり、土に埋めるか長く水に浸けるしかしないと銀杏が取り出せない。手間は
  かかるがその味は捨てがたく茶碗蒸しなどに入れると美味しい。
   銀杏を炒るには紙袋に入れ袋の口を折り返し、電子レンジ強で2分が食べ頃という。 
  是非お試しあれ。

     金色のちいさき鳥の形して
           銀杏(イチョウ)散るなり夕日の丘に   与謝野晶子