『ほろ酔い植物考』 トリカブト   キンポウゲ科

                                   田城 松幸

   単にトリカブトと言う名の植物は無い、この場合はその総称と言う意味である。全国の
  山野に自生する多年草、四国では平野部には無いし幡多地方では山間部でも見たことがな
  い。古来より猛毒植物として名高い草で、かってアイヌの人たちは鯨捕りや熊狩りに用い
  たと言うから半端な毒ではない。根(附子という)に一番毒が多いが、毒草の毒は草全体に
  あるのが普通であり、トリカブトで採った蜂蜜で中毒した例を何かで読んだ記憶がある。
  花が咲けば色と形でそれと分かるが春先に出る根出葉は、ゲンノショウコの葉を大きく
  したような感じで切れ込みがいっぱいあるが、花時にはこの葉は無くなる。要するに花時
  以外は素人には簡単に見分けがつかないのである。
   大変種類の多い草で牧野植物図鑑にはトリカブト、ヤマトリカブト、ホソバトリカブト、
  レイジンソウの4種しか載っていないが、平凡社発行『日本の野生植物』フィルド版には
  レイジンソウの仲間を含め31種、変種を含めれば40種ほど載っており、単にトリカブ
  トで索引を見ても出ていない。
   かくも細かく分類する必要が本当にあるのか、私は疑問に思うのだが、いかんせん学者
  先生は私ごときの意見に耳を貸すほどヒマではないらしい。
   四国にはシコクブシ、タンナトリカブト、レイジンソウの3種があり、レイジンソウは
  白っぽい花で天狗高原にいっぱい咲いていた。シコクブシは東海、近畿地方にあるカワチ
  ブシの変種で、山嶺あたりで通常目にするトリカブトはほとんどこれである。
   タンナトリカブトは高知県では絶滅危惧種に指定されており、花柄に毛があるそうだが
  私はまだ見たことがない。和名のトリカブトは鶏のとさかに似ているからではなく、雅楽
  の際に用いる怜人(れいじん)の冠に似ているところからついた名で、庭先を裸足で走り回
  る色気のない生き物とは関係ない。なお、レイジンソウも同様の意味である。
   トリカブトはもともと寒い地方の植物で、寒さが厳しいほど毒性が強いと言う。かって
  ネパールの山野を彷徨したときも、トレッキングで天山山脈に行ったときもちょうど花の
  時期だったのでトリカブトの類がいっぱい咲いていたことを思い出す。
   猛毒ではあるが物は使いようとはこのことで、漢方では昔から神経痛やリュウマチの薬
  として(むろんごく少量)用いたようだし、強壮、強精作用もある。多分戦前の話だと思う
  が、著名な植物学者であった鈴木博士が自分で研究した使用量を確実に常用し、80歳を
  過ぎてから子供をもうけられたそうだが、ある時量を間違えたか蓄積作用のせいか急に中
  毒症状をおこして(一説によるともっと子供を作るべく量を増やした)手当の甲斐もなく死
  亡し、当時のマスコミを賑わしたという。専門家ですら、かくのごとき状態である。
   あろうことか山菜山行でこのトリカブトを誤食し、シビレタという強者がいる。手や顔
  がしびれ、嘔吐したという。だから今、生意気に酒を飲んでいられるのかもしれない。そ
  れにしてもよりによってこの草をと思う。知らないと言うことは恐ろしい。
   
   毒もちて 哀しきさだめに咲くなれど
                やまとりかぶとの紫はよし    山脇哲臣